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大阪地方裁判所 昭和49年(行ク)13号 決定 1974年5月28日

申立人 張甲守

右代理人弁護士 松井清志

同 中田明男

同 井上善雄

被申立人 大阪入国管理事務所主任審査官 吉田茂

右指定代理人 井上郁夫

<ほか三名>

主文

被申立人が申立人に対し発付した昭和四九年三月一二日付退去強制令書にもとづく執行は強制送還部分に限り本案(当庁昭和四九年(行ウ)第三二号)についての判決が確定するまでこれを停止する。

申立人のその余の申立を却下する。

理由

申立人の申立の趣旨、理由は別紙のとおりである。

本件記録によると、被申立人が昭和四九年三月一二日付をもって、申立人に対し退去強制令書を発付し、これにもとづく執行として、申立人を横浜入国者収容所に収容したことが疎明され、申立人が被申立人を被告として、右令書発付処分の取消を求める本案訴訟を提起し、当庁昭和四九年(行ウ)第三二号事件としてけいぞくしていることは、当裁判所に顕著であるところ、申立人の請求に理由があるかどうかの点についての判断はしばらくこれを措き、現在既に本件令書の執行として前示収容所に収容されている申立人が、朝鮮に強制送還されることにより、実質的に本案訴訟について裁判を受ける権利を侵害されることになり、回復の困難な損害を被るといわねばならない。申立人に生ずるこのような結果の招来を避けるためには本件令書にもとづく執行のうち、少くとも強制送還部分の執行を停止する緊急の必要性があるというべく、右結論はまた憲法第三二条の趣旨にも合致するものであり、これにより公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるということができない。しかし強制送還部分を除くその余の申立部分については、これを停止する緊急の必要性が認められない。

よって、本件申立中、強制送還部分の停止を求める部分を正当として認容し、その余の部分を失当として却下する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 石井彦壽)

<以下省略>

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